エンタープライズブロードキャストの近代化

英国民放最大手の放送局、ITV。同局が標榜する「integrated producer broadcaster」、すなわち「放送事業者と制作者が一体化された存在」の略称を局名として冠するように、幅広い分野のオンデマンドコンテンツを、旧来の地上波テレビ放送にとどまらない数多くのプラットフォームを通じて供給しています。またITVは直系のプロダクションITV Studiosで制作した番組などの放送コンテンツを同局の系列ネットワークおよび全世界の供給先にむけて提供しています。

2010年、ITVは急成長するファイルベース技術を効率良く取り込むことを目指し、コンテンツ配信の近代化に乗り出します。計画が順調に行けば、このプロジェクトは局全体のマルチプラットフォームコンテンツ配信のありかたが全面改修されることが予想されました。2013年、Cantemo Portalの試験導入を決定しました。現在、非常に洗練されたシステムにより、放送されるITVのコンテンツは、生放送以外の収録された番組であれば視聴形態を問わず、どこかの段階でかならずCantemo Portalで管理されています。

「良い物は買おう」を合言葉に、特注システムよりも既成品の応用でコスト削減。

ITVのコンテンツデリバリー近代化計画プロジェクトチームは、計画発足とともに、まずコンテンツデリバリーを取り巻く数々の問題を明確に洗い出す作業に着手し、諸問題を明確に列挙しました。当時のITV内部のファイルベースワークフローへの対応能力はゼロに等しく、コンテンツ配信に関して、は社外の専門業者への外注に頼っていました。また、会社の変革スピードとレベルも同様に、向こう6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月の間にわたって必要となる配信量の予測を立てる事もままならない状況でした。

伝統的に大規模な放送局は、これまで放送業務の進化に伴う問題を、メーカーへ発注して開発された特別仕様の機材で解決してきました。こうした複雑化する業務を甘く見積もることはできませんが、特別仕様の開発案件では、費用はあっという間に膨大な金額に膨れ上がるものです。そこでITVは、目的を果たすために機器の構築と開発の折衷策により、最も効果的な方法を用いて対応することにしました。
汎用の既成品を組み合わせ、目的に合わせて洗練させていくことが、今回のプロジェクトの諸要求を満たす近道であるということが、明確になってきました。

「良い物は買おう」、その対象を決めるため、プロジェクトチームは要求仕様を精査しながら、慎重に評価をすすめました。その結果、求めている機能の大半を備えている既成ソリューションを見出すことがカギとなることに気づきます。現実的でない選択肢以外は、ITVが求める機能を持つ既成品のシステムが見つからないと思われるなかで評価対象に浮上したのがCantemoでした。Cantemo PortalとVidispineの強力な組み合わせが採用の決め手となりました。目的を満たす既成ソリューションのカスタマイズという手法は、チームにとって予算を管理しやすく、外的な変化にも機敏に対応でき、将来の新しい要求にも成長できるスケーラビリティを確保することができるのです。

「良い物は買おう、無いものは作ろう」というのがプロジェクトチームに一貫するポリシーです。この考えに該当するツールが見つからないときは、要求仕様自体の再検討が必要であるということだと理解して、仕様条件を再調整して再び探しだすという作業を繰り返しました。調査のなかでこの2つのソフトウェアは要求を満たす以上のものでした。中核に備える機能は驚くほど強力で、両製品ともに拡張性を前提とした設計は、将来必要になる新しい機能を部品として特注して追加することができることを意味します。この手法は既にITVにおいて高い実績を持つ、コスト効率の良いモデルでもあります。

放送局仕様のMAM

ファイルベースの配信業務を内製化するために、ITVは放送システムに完全に統合できるアセットマネジメントソリューションを求めていました。当初から、マルチベンダによるシステムの集合体として構築することを検討していました。そのため、Cantemo Portalは多種多様な放送機器やシステムに幅広く連携させる必要が予想されました。ITVが保有する膨大なAVC DPPマスター映像データは、1ペタバイトをゆうに超える容量がIsilonのストレージに収容されています。目的のコンテンツへのリクエストは内部のスケジュール放送システムから呼び出されますこれらはnavtiv mioワークフローエンジンに渡され、Vidiscpine APIコールを通じてCantemo Portalをトリガーし、トランスコードファームに渡されます。トランスコードされたファイルは配信前に最終QCチェックを経て、主にSigniantやAsperaなどを経由し、VODまたはパートナー放送業者に送られます。

ITVは、「アノテーションツール」などの利用でワークフローの自動化を実現し、Cantemo Appsの恩恵をフルに活用しています。現在DPPデータセンターはタイムベースアノテーションメタデータを番組のファイル用に生成しています。アノテーションはVantegeトランスコーダークラスターにEDL情報を受け渡すために使用されています。トランスコーダーは、元のカラーバーや基準トーン信号が挿入された「番組納品フォーマット」の状態のコンテンツファイルを自動的に編集して、番組本編を細分化した「VODフォーマット」に作り変えます。

「ITVが今回のプロジェクトで採用した近代化アプローチは、我々Cantemo社が描く次世代のメディアアセットマネジメントシステムの未来像の方向性と完全に一致するものです。「万人が着られるワンサイズの既成服など存在しない」という事実は歴史の中で度重ね繰り返し実証されてきましたが、基礎となる基本性能が大多数の需要を満たし、かつカスタマイズ性と拡張性に富み、特定のユーザーの特定のニーズに対応できることは、Cantemo Portalが持つ、他との決定的な優位性となります。この度ITVに採用され我々Cantemo社に望みを託していただいたことを光栄に思うとともに、今後の展開に期待を膨らませずにいられません」(パーラム・アジミ Cantemo社 CEO 共同設立者)

カスタマイズ性

ITVのような大組織にとって、インターフェイスのカスタマイズ性は重要です。Portalをより普段から慣れ親しんでいる各種ツールに近い使用感に近づけることができ、導入トレーニングの負荷を低減し、大規模な導入展開の障壁が取り払われます。全組織への展開開始により、コスト削減と時間の節減の両面で多大な恩恵が得られます。

 テーマのカスタマイズ作業への参画は、プロジェクトチームが実施した他の開発を象徴する出来事でした。
標準のユーザーインターフェイスのままで求めていたほとんどの仕様を満たしていたので、最終的にカスタマイズされて完成したテーマはマイナーチェンジに留まる小規模な改変で済ました。これによりチームのリソースをより細かい部分に集中させ、「マイクロサービス」と呼ぶ追加機能を開発しました。

 移行が順調に進むなか、ITVのプロジェクトチームは主要機能が実装され稼働したことに満足しました。的確な基礎の上に綿密な目的を定義したことが大きな成果を生むことになりました。CantemoやVidispineをいったパートナーを選択することで、汎用機器で構成されたシステムにより、一般的な機器とカスタマイズ性の適正なバランスをもたらしました。パートナー各社の連携により、ITVはより多くの資源を本来取り組むべきタスクに集中させることができるのです。