Pomfort 事例 : 映画『スパイダーマン:ホームカミング』 DIT・フランチェスコ・サウタ氏

幅広い世代にわたって著名なスーパーヒーローシリーズ、スパイダーマンの再始動後の2作目となる本作品だけに、観客からの期待は自ずと高まります。

この高い期待に応えるべく、ジョン・ワッツ監督は、主人公ピーター・パーカーが高校生とスーパーヒーローの二足のわらじを履く快活な物語を色彩豊かで鮮やかに表現するという独特の表現手法を取りました。

本作のメインユニットのDITを担当したフランチェスコ・サウタ氏が「スパイダーマン:ホームカミング」撮影監督のサルヴァトーレ・トティーノとの関わりや、撮影現場でのカラー作業におけるACESの影響、異機種のデジタルシネマカメラが混在する環境下で、即興で作りながらも確かな品質のルックで対応する方法について語ってくれました。

(インタビュアー) フランチェスコさんはDITとしてロサンゼルスを本拠に活動されていますが、撮影監督のサルヴァトーレは東海岸がベースですよね。お二人が一緒に働き始めた経緯について教えてください。

サウタ氏 : サルヴァトーレは生粋のブルックリン育ちです。出会いは当時私がUCLAの学生で、「Arriflexカメラアシスタント認定」という補修講義を受けていた13年前に遡ります。LAの機材レンタル店クレアモントカメラで当時ファーストアシスタントカメラマンだったサル(サルヴァトーレ)と初めて会って話し込み、親しくなりました。サルは当時サンタモニカの飲食店の共同経営もしていて、そこではボクシングを通じて知り合った友人がマネージャーをしていました。つまり、レンタル機材店とボクシングでのつながりで、運良くサルと知り合いになったわけです。
フロスト×ニクソンの撮影をサルが始める直前のタイミングだったのも手伝って、撮影インターンとして業界に入り、その後カメラPA、フィルムローダー、セカンドアシスタント、そしてDITとキャリアを積み重ねてきました。

(インタビュアー)サルから「スパイダーマン:ホームカミング」の製作の話を持ちかけられたのはいつ頃ですか?

サルがアトランタへ出発に出かける直前でした。撮影は2016の5月か6月の開始でしたから、2016年の2月頃のことです。

(インタビュアー)充分な準備期間があったということですね。ドルビービジョンHDRでの上映・配給ですから、いろいろなテスト作業などがあったと想像していますが、実際はどうでしたか?

はい。確かに最終納品はドルビービジョンHDRですが、準備期間中は主にACESのワークフロー確立に費やしました。ACESをプラットフォームとすることで、異機種のデジタルシネマカメラやモニターが混在する環境をマッチさせることができます。私がACESが異なるカメラやモニタの環境を完全に解決したと言えば不思議に聞こえるかもしれません。

ただしACESをもってしても、どのような機材で何をしようとしているか、モニターの表示フォーマットや各カメラごとの能力や特性・制約などを熟知していることが求められます。本作では撮影中を通じてRec.709でモニターを行いました。HDRも念頭に置きながら、撮影現場ではRec.709で柔軟に扱えるようにカーブを最適化することに集中しました。しかし実際には撮影現場ではDolbyやHDRに拘泥することはなく、Rec.709への最適化に終始しました。

(インタビュアー)撮影準備期間中に試したり検討したソフトウェアはありますか?それとも既にご自身で使い慣れたワークフローをそのまま持ち込ましたか?

既存の私自身のDITキットに、新しいソフトウェアとハードウェアを組み込むことになりました。というのもデイリー担当の現像所(EC3社)がColorFront製のツールを使っている一方、私はLiveGradeを使っていたので、これらの異なるツール間でのカラーの受渡しが正確に行われるかどうか検証する必要が生じました。全員がどちらもACES バージョン1.0を利用していました。撮影現場側で全てのテストを実施した結果、Pomfort社のSilverstackとLiveGradeがうまく動作するという結論に至りました。テストでは私のDITキットにも組み込んでいるResolveのフルバージョンも使用しました。ACESを使ってカラーサイエンスの観点で異なる機材を混在させながらプラットフォームとして一貫性を確保するためです。ただ残念なことにACES絡みの細かい問題が発生しました。

(インタビュアー)その問題について教えてください。ポムフォートとしては、ACEScc とACEScctの両リビジョンで問題解決の試みがあったと聞いています。

ACES 1について相談できる他のDITがほとんどいませんでした。我々、すくなくともサルと私にとっては、ACESを最初に投入したのはナレーティヴな作品でした。コントラストの高いシーン、たとえば夜の屋外で車のヘッドライトの光がカメラに向かってくるような場面で問題が表面化しました。

ACESカラートランスフォームによる偽色でハイライトに紫色のフリンジも発生しました。これは準備期間中のテスト撮影では気づかなかったのですが、撮影現場ではコントラストの強い映像でハイライトにハレーションのようなものも発生しました。登場人物にも発生することがありました。現場プレビューでフリンジが発生しないようにカーブを調整してLUTを変更して対処しなければなりませんでした。

私は普段からACESコミュニティの中心に身を置いていて、非常にすばらしい集まりだと感じています。ACESの人たちに打ち明けると、バージョン2でこうした問題の解決に取り組んでいるということでした。まだ使う機会がありませんが、以上が私達が経験したACESの問題です。コントラストが強い映像で紫色のフリンジが出る現象は、一見レンズの光学的な現象のように見えましたが、実際はカラーサイエンス由来で発生する偽色でした。

(インタビュアー)では、寒色を抑えてハイライトカーブを調整して対処したということですね。

可能な限り紫色を取り除くような方向でカーブを調整するようにしました。もちろんこれは無視できない問題であり、サルも撮影現場でこうした偽色を目にしたくありませんでした。

(インタビュアー)補正作業はLiveGradeを使いましたか? 準備で用意したLUTを使って、LiveGradeで微調整して適用してモニターで確認したのでしょうか?

どちらかというと、すべてを現場で即興で調整しました。2、3種類のLUTをテスト前に作って用意はしていましたが、それ以外はすべて現場合わせで対応しました。

(インタビュアー)つまり紫色のフリンジに現場で気づいて対応にあったた、使ったのはLiveGradeとTeradek社のCOLRということですね?

COLRを選んだ理由は、33ポイントものLUT制御点の多さです。ACESカラーサイエンスを扱うには充分な性能です。ただしCOLRはカメラに載せられていて、Wifi接続でつながっています。Wifiの伝送距離は心もとなく、接続の問題を発生させます。でも私のDITステーションにイーサネット接続すれば応答速度も申し分ありません。LiveGradeとCOLRすばらしいコンビネーションです。

(インタビュアー)何台のLUTデバイスを使用しましたか?DITステーションに1台、各モニターで同じルックを割り当てるようにモニターごとに1台という具合でしょうか?

まさに、ほぼ察しのとおりです。正確には撮影日ごとに3〜4台のカメラで撮影しました。それらはAlexa miniだったりAlexa XTだったりするわけです。さらに4:3でも収録してもいますのでおそらく7-8個のLUTデバイスを使っていたと思います。私だけで10個持っていますが、VTRや現場のVEにも持たせたりしていました。

(インタビュアー)ということは、映像信号の径路はすべて無線伝送だっということですね?

まさしく。すべてParalinx Tomahawkでした。信号は私のところにクリーンに渡され、ルックをあててVTRに返します。COLRのすばらしい優位点はLUTデバイス内に2-3のLUTを保存できることです。さきほどの紫の偽色対策に何件ものLUTをCOLR側に保存しておくのに最適でした。

(インタビュアー)Alexaだけでも3種類を扱わなければならなかったそうですね。でも我々が知る限りマッチさせやすいと聞いています。

センサー技術、大きさなど、どれをとってもほぼ似通っています。また手持ちのPOV撮影もカメラからの視点を感じさせるために意図的に多用しています。これにはBlackmgic Pocket Cameraを使いました。ここのBMPCCの画はまったく異なるもので、カラースペースも違えば解像度も異なります。これは通行人の街の子供がスマートフォンのカメラやコンパクトデジタルカメラで撮ったというような、臨場感をもたせるための表現につかったもので、劇中のストーリーに狙い通りにマッチしました。

(インタビュアー)ACESとのマッチングのために専用の入力デバイスを使ったのでしょうか?

IDT(ACESの)と併用しましたが、Alexa撮影のシーンとの画がまったく異なる特性を利用して、意図的にポケットシネマカメラをさまざまな場面に多用しました。ポケットシネマカメラの画は色の面ではあまり調整の必要はありません。ACESからのIDTを適用した比率は半々程度でした。
時々Alexa撮影同様のワークフローを適用することもありました。小型カメラ用の入力機器を使ったり、また時には劇中で「カメラで撮っている」事を観客に意識させる事を狙ってそのまま使用することもありました。

(インタビュアー)撮影現場で使用したモニターについておしえてください。SONY OLEDですか、それともオフィスで使っているモニターを持ち込みましたか?

オフィスにDolbyモニターを保有していますが、撮影現場ではOLEDを使っています。またSONYのBVMも使います。FSI社のDMシリーズも好きですが、現在はSONY OLEDの機能とパネルに大満足しています。FSI社のCM-250とDM-250と同じパネルを使っています。SONY OLED PVMA250をスパイダーマンで使用しました。最も重要なのはモニターをデイリーの現像所と合うようにキャリブレーションをし、
2-3週間毎に、撮影期間中に時間を見つけては現像所へ赴き、ラボのモニターと合わせるために調整していました。準備期間中のテスト撮影の前にまず実施し、カラーマッピングが確実に合うように確認をしました。LUTに関してのサルからの指示が、確実にデイリーに反映されるようにするためです。さらに撮影中は2-3週間ごとに屋外での撮影現場を走り回っては、カラーマッピングが適正化どうかチェックし、ポスプロの環境から色彩の面において遊離していないかを確認しました。

(インタビュアー)現像所・EC3社カラリストのエド・ツウィフォードと一緒にお仕事をされたんですね?

はい、現像所ではエドと作業しました。デイリーカラリストとの作業のすべてはコミュニケーションに尽きます。定型書類や手書きの指示書だけでなく、撮影監督がの意図を的確に捉えるための現場でのコミュニケーションが非常に重要です。エドと私は常にメッセージやメール、携帯のチャットアプリで密接に連絡をとりつづけました。

フランチェスコ : 実際のモニターキャリブレーションは私ではなく、現像所であるEC3の技術者に調整を依頼しました。私自身モニター調整はできなくはありませんが、餅は餅屋ということです。ラボにはラボで使うモニターの調整に精通した技術者が居ます。彼ら自身が普段ラボのモニターを調整しているのと同じ手順と方法で調整するのですから、より高い精度が期待できます。日頃彼らが現像所の業務でデイリーをグレーディングする環境をつくるやりかたになるし、私のモニターの調整を依頼することで、私のモニターも同一の手順と方法でキャリブレートされることになるからです。以上が私がやっているごく単純なコツなのです。最終的にはすべて彼らに託しました。というのも、ポスプロで使われるモニタリング環境も彼らが調整をすることになるからです。

(インタビュアー)使用した機材や状況などで、全く新しい機器構成や状況、あるいはこのタイトルで初めて経験した事などはありませんか?

フランチェスコ : Blackmagic Design製カメラ、iPhone、その他のPOVカメラがメインカメラと対照的な画が撮影できるということで投入されました。ほかにも現場で使いやすいからという理由もありました。
たとえばビデオビレッジ(撮影現場で確認用のモニターなど機材が集められる場所)へ映像を間断なく送りたいというときにはワイヤレス接続が便利です。ワイヤレスでの伝送が構築できない状況ではケーブルを這わせないといけないときもありました。

ACESの多用も初めての試みです。非常に新しい技術であることもあって、特に各種テストを繰り返しました。美しい映像が得られますが、紫色のフリンジにも悩まされ、相当なやりなおしを強いられました。単独ではかなり複雑化して難儀することになったであろう問題の対処には、EC3の心強いバックアップに助けられました。

(インタビュアー)DITという職種は、これほどにも幅広いワークフローの知識への理解を求められる技術的に深い仕事でありながら、同時に芸術的表現に欠かせない審美眼を求められるのですね。技術者とアーティストの両方の観点を相互に切り替えながら仕事をされているのでしょうか?LiveGradeに限らず、DIT業務全般ををどのようにお考えでしょうか?

私自身は切り替えているというよりも、むしろ両方が渾然一体となったものであると捉えています。それは芸術であり、かつ工芸でもあるということです。ですからLiveGradeはこの2つをいわばつなぎ合わせるものであると考えます。技術的な知識は、クリエイティビティの自由度を広げるものです。技術面に集中している時ですら、アーティスティックになれます。というのは、技術面への理解が芸術的な表現に欠かせないからです。また、私の業務のほとんどの役割は、撮影監督が満足のいく仕事をするための支援業務に過ぎません。撮影監督の意図を具現化する、というのが我々DITの本分なのです。