Pomfort 事例 : 映画『デッドプール』メインユニットDIT担当ミッチ・バックス氏

映画「デッドプール」の撮影で撮影部メインユニットのDITを担当したミッチ・バックス氏が、撮影現場でのカラーとデータ取り扱いの秘密をPomfort社に教えてくれました。

撮影に使用したカメラや、収録フォーマット、ポスプロで使用されたフォーマットについておしえてください。

バックス氏 : 撮影はARRI ALEXA XTで行いました。設定は次の通りです。

カメラ : ARRI ALEXA XT (オープンゲート16:9) ファームウェア:SUP 11
プロジェクトフレームレート : 23.976
オープンゲートコーデック :  ARRIRAW, 3414 x 2198
フレームライン設定 : クロップ8%、オフセット30%

以上がワークフローの基礎となる設定でした。DIT担当として基礎となる設定を熟知し、決められた画角で的確に撮影することが撮影の命運を握っていると考えています。画角その他のカメラの設定を叩きこんだら、撮りたいと思うように機材やその他の設定を変更します。たとえば、ハイスピード撮影時では、75fpsに対応できるようにカメラを16:9モードに切り替えないといけませんが、撮影期間を通じて何度もこうした状況に直面しました。

元素材はALEXA XTと2TBの収録メディアCodex Capture DriveにARRIRAWで収録されました。従来は制約の多い外部レコーダーで収録するしかなかったARRIRAWですが、ALEXA XT本体に収容できる収録メディアに記録できるようになり、飛躍的に利便性が高まりました。

収録後は Codex Capture Driveから直接データをSilverstackでRAIDストレージにダウンロードします。Silverstackひとつですべての撮影素材をカタログ化して一括管理できるからです。色温度、ASA、シャッターアングル、フレームレートなど、作品を通じて一貫した的確な色調や表現を維持できるように、普段から私は過去に撮影したシーンを参照しながら作業するのに役立てています。この手法は非常に便利で、手書きのカメラレポートの束を撮影部とやり取りする手間が省けます。もっとも、撮影現場では手書きの書類などはコーヒーのしみや雨で滲んで判読不能になっていたりするものですが。

撮影データはSAS接続・デュアルポートのリーダーでCodex Capture DriveをMacbook Proに接続し、RAID5ディスクアレイに転送します。そう、デスクトップではなくラップトップで映画全編で使われるデータのオフロードをこなすのです。MacProのように、もっとパワフルなマシンが必要に思われるかもしれませんが、私はスピードと柔軟性を重視し、すべてラップトップで行っています。持ち運んで夜に試写をしながら検討もできますし、セカンドユニットやスプリンターユニットに持ち運んでスチルリファレンスの提供や出先でLUTを当てて見せることもできるからです。中にはより大型のコンピュータ機材が求められる現場もありますので、MacProとラップトップの両方を使い分けていますが、「デッドプール」に関しては、Macbook Proだけでこなしました。

Silverstackは撮影を通じて、いつでもどこでも撮影データの膨大なライブラリを簡単に他のスタッフに見せるのに活躍しました。

特にカラーとルックに関して、撮影監督とのやりとりはどのように行われましたか?

バックス氏 : 撮影監督のケン・セングから課されたタスクは、日々の撮影現場の業務と、ワークフローの円滑化でした。たとえば撮影クルーが夜中の3時に「LUTはどこにあるの?」とか「なんで青みが強すぎるの?」などといった内容の電話で起こされたりしないように、いつでも即答できるような体制にしておくことです。これは持ち運べるラップトップで作業をする理由なのです。

LiveGradeはケン・セングの意図通りにLOG-Cを調整する作業にうってつけのツールです。非常にスピーディーな現場で、動きまわったりライティングやカラーを撮影現場で次々と変化させているので、即座に対応できることが何よりも重要でした。現場での調整がキーであり、この要求に応えられるLiveGrade以上のツールは存在しません。

使用されたLUTはすべて撮影日に作成されています。あらかじめ撮影監督は撮影前テストでベースルックを設計し、その後の撮影を通じて常に参照するリファレンスとしました。まず最初に使用する基準となるLUTがすべての作業のスタート地点の役割として使われ、異なるカメラ間の調整や全体の色調や表現をケンの意図に合わせるために使われました。LiveGradeでリアルタイムにLUTをつくりあげていましたが、時にはケンも「オレにも触らせろ」とカラーホイールパネルを操作するほどで、そのような場合は私が彼の操作側についてケンが自ら意図するカラーの再調整の補助をしました。輝度の微調整だけをケンが行うような細かい操作もありましたが、私がつくっていたLUTをケンが一から作り直すこともありました。このようにして、シーンごとのLUTもすばやく作成できたのです。

撮影監督自らの手で思い通りの色彩表現に調整できることは映画製作者にとって撮影現場での調整の幅を広げる画期的な手段です。これは本来専任スタッフに委ねられている部分ですが、このように担当者と撮影監督と連携して作業効率の改善にも役立ちます。

撮影も終盤に差し掛かると膨大なLUTライブラリが蓄積され、繰り返し常に参照しながら次の収録シーンの準備として踏まえることができました。今でもデータとして持っていますし、撮影前に設計されたLUTは非常に重要で、良く収録されたデータのライブラリが撮影現場での時間節約に大きく貢献しました。

LiveGradeのライブラリはとても見やすく、系統だっていて使いやすいものです。ですので、2週間前に使ったLUTを探し出すような事も一発でできました。LiveGradeだけで日付でデータを追えるので、特定の日に何が起こっていても、以前の撮影現場の特定のルックもすぐに探し出せるのです。

この作品の仕事で特に興味や魅力のある点は?

撮影監督が再調整をした事については先に触れましたが、最も感じ入った点は、いかに撮影監督のケンがいつも最良の映像を撮る事に執念を燃やしていることです。私は常にLiveGradeを使って次々とLUTを設計構築し、照明を補完していますが、毎日が感銘を請ける日々であり、私がカラーとポストへの引渡しを含めたワークフローに日々真剣に取り組む動機となっています。最終的に完成した作品を映画として観ると、我々が汗水を垂らした現場と同様の努力に心を動かされるのです。そこにはDIが居て、他のシーンでは色調の維持調整に困難な苦労を伴った事が手に取るように実感しますが、劇場で鑑賞するとその苦労も報われ、カラリストが我々が現場でつくったLUTや参照しながら作業した痕跡を認めることができます。

LiveGradeとSilverstackは私にとって優れた時間節約ツールです。収録開始からスタッフの間でごく簡潔な会話しか必要ないほどでした。常に撮影現場のルックでつくりあげられた世界を管理し、ポスプロ工程にも多大な貢献を果たした感じています。通常はポスプロ担当との摺り合わせのために会話をしなければなりませんが、Deluxe社の現像所のデイリーカラリスト向けに私のワークフローの一環としてTIFF静止画と一緒に.CDLそしてベース.cube LUTのデータをデイリーに合わせて提供しました。それらのデータはスチールが配布・アーカイブされ、将来の撮影の照明の参考やDI工程に活用されました。

今回はバックス氏のご厚意で映画『デッドプール』での担当業務について教えていただくことができました。映画全体の製作についての詳細は「Definition Magazine」誌(http://www.definitionmagazine.com/)に掲載されています。また、本稿の続編として同映画のセカンドユニットのDIT担当であるクリス・ボルトン氏へのインタビューを予定しています。