オーディオ制作におけるPresSTOREを利用した、データセキュリティ・ワークフロー戦略

ヘンリー・ステイマーヨハン氏 (headmin社)

プロフェッショナルオーディオ制作の現場では、ワークフロー全体を通じて発生するデジタルデータのバックアップとアーカイビングの戦略的な計画が必要です。バックアップ戦略の立案は、ミキシングルーム、MA室やスタジオごとに1、2台設置されているワークステーションや、共有ストレージのバックアップの検討からはじまります。

ここで説明する例では、3台から10台のワークステーション環境でのバックアップにスケーラブルに対応しますが、さらに大規模な環境にも応用することができます。オーディオプロダクションハウスに設置されたワークステーションの数に応じて、あるいはスタッフが各自使用するオーディオワークステーション(DAW)の数に応じて拡張することができます。

 

■システム構成例

Archiware PresSTORE(アーキウェア・プレスストア)をプロフェッショナルオーディオプロダクション向けに構成する場合には、私の場合ほとんどのケースでPresSTORE専用サーバーとしてMac Proを1台用意します。特にPresStore 4.xの要件として記述されているわけではありませんが、このサーバーにはOS Xの通常ライセンスではなくOS X Serverライセンスをインストールするようにしています。 内蔵HDDには合計6テラバイトを用意し、さらにFireWire800接続の6TBの外付けRAIDストレージ(RAID 5)を接続します。

バックアップ戦略の基幹は、ディスクバックアップとします。さらにオフサイトバックアップなどでデータを保全する必要があればLTOテープドライブを接続してテープバックアップ機能を追加することもできます。

バックアップサーバー機以外には、メイン制作用途のオーディオワークステーションとしてMac Proが2台、MacBookProを1台用意して、サーバー1台、デスクトップDAW2セット、ラップトップDAW1セットの構成を組みます。さらにMac miniを1台追加してiTunesの共有ライブラリ用のセントラルメディアステーションとして使用します。フリーウェアの"StreamToMe"サーバーを用意することで、遠隔地からのiPadやiPhoneでムービーやオーディオファイルへのアクセスも可能です。

 

mp96
Mac Pro
mp96
Mac Pro
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Mac Pro
mbp96
MacBook Pro
mm96
Mac mini
PresSTORE
専用サーバー
DAW1号機 DAW2号機 DAW3号機
ラップトップ
iTunes共有ライブラリメディアステーション
Mac OS X Server Mac OS X Mac OS X Mac OS X Mac OS X

・PresSTORE
PresSTORE P4
Studio Edition
・Webサーバー
内蔵HDD 計6TB
PresSTORE

・6TB FW RAID
RAID 5

・Apple Logic Studio
・Ableton Live
・VSL VIENNA ENSEMBLE PRO
・Native Instruments KOMPLETE
・各種プラグイン
・Apple Logic Studio 
・Ableton Live
・VSL VIENNA ENSEMBLE PRO
・Native Instruments KOMPLETE
・各種プラグイン
・Ableton Live 8
・Propellerheads Reason
・Native Instruments Machine
・Native Instruments Traktor Pro
・StreamToMe (フリーウェア)
PresSTORE
Backup
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PresSTORE
Backup2Go
ip4g
PresSTORE
Backup2Go
ip4g
PresSTORE
Backup2Go
ip4g
PresSTORE
Backup2Go
ip4g
PresSTORE
Backup2Go
ip4g

 

■ データを2タイプに分類したバックアップ戦略

オーディオプロダクション向けのバックアップ戦略は、2タイプの異なるデータの取り扱いをいかに適切におこなうかにかかっています。まず、2種類のデータとはどのようなものでしょうか。まず「静的コンテンツ」は、サンプリングライブラリや、Appleループ、LivePacks、参考用のiTunesライブラリなどの固定されたコンテンツライブラリなどです。

次に「動的コンテンツ」は、編集・変更がつねに行われるファイルであり、編集が行われている作曲中の楽曲ファイルであったり、プロジェクトファイルであったり、レコーディングのファイルなどです。オーディオファイルに限らず、オフィスソフトのドキュメントファイルであったり、emailのファイルなども含まれます。

静的コンテンツ サンプリングライブラリ、Appleループ、LivePacks、iTunesライブラリなど更新頻度の低いコンテンツ
動的コンテンツ 作曲中の楽曲ファイル、プロジェクトファイル、レコーディングされたオーディオファイルファイル、各種オフィス文書ファイル、emailなど、編集・変更が頻繁に行われるデータ



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■ 静的コンテンツのバックアップをアーカイブ的に利用

静的コンテンツは更新頻度が低いかほとんど変更が加えられることのないデータの集まりです。更新頻度が低いので、増分バックアップを1日1回のスケジュール実行することで対処できます。

このバックアッププランでは、2つのワークステーション上で"static"(静的)と命名したディレクトリに対して実施します。Native Instruments Kompleteのサンプルライブラリ、 Apple Logic Studioのコンテンツ, AppleLoops, Ableton LivePack コンテンツ (すべてが"Application Support"ディレクトリ下に保存されています) さらに Exs24音源のカスタムサンプル、 Native Instruments Kontakt ライブラリのすべてをバックアップしておきます。

このバックアップ例では、ワークステーションごとに320ギガバイト以上をバックアップしています。

まず検討すべきは、数ヶ月に一度追加されるような更新頻度の低いコンテンツに対しての対策です。これはいわば「アーカイブ」に迅速にリストアできる機能をもたせるようなもので、部分的にファイルが破損した場合に対応できます。リサイクリングポリシーは大きい値に設定しておきます。これはクリティカルデータには普通推奨されない設定値ですが、音源データの元データはつねにサンプルライブラリのCDやDVDに通常保管されているので、データの完全損失は起こりにくいという前提によるものです。

リストアが必要になった場合には、PresSTOREを使うことでこれらのDVDやCDを1枚1枚読みなおすよりもずっと楽になります。

■ 制作中プロジェクトのデータ保全策

ここでのバックアップの目的は、『制作が進行している最中のデータ』を保存することです。
しばしば制作は長期間に及ぶ編集プロセスの一部であることがあり、楽曲のアイデアや新しいカスタムサンプル音源ライブラリへの編集が、たとえばサンプル音源エディタのRedmatica KeymapProなどを使って行われます。

バックアップの容量はさまざまです。変更が加えられたコンテンツデータは編集中に変更されます。ファイナルバージョンが完成する頃には前述の「静的コンテンツ」を収容した場所に移されています。このような目的では、浮動的バックアッププランは4時間ごとに増分バックアップとして設定します。さらに短い時間に設定もできます。

■ PresSTORE Backup2Goで各ワークステーションをバックアップ

おそらく、最も重要なバックアップは、個別のワークステーションの楽曲制作プロジェクトと関連したオーディオデータと設定ファイルのバックアップでしょう。

すべてのMac ProとMacBook Pro、Mac miniまでの個別のマシンのバックアップのために、PresSTORE P4 Backup2Goクライアントバックアップを選びました。クライアントワークステーションのウェブブラウザから簡単な設定画面で、バックアップスケジュールやバックアップ対象のパスディレクトリを柔軟に設定できることがカギとなります。

この構成はLogicProやAbleton Liveで新たに追加されたのプロジェクトや変更・追加されたレコーディング音声ファイルやエフェクト設定などの増分バックアップをおこなうのに理想的です。

端末のなかには、ユーザーのeメールやオフィス文書や画像のバックアップも含まれます。そして、Mac miniメディア・ステーションでは共有iTunesライブラリもバックアップ対象となります。 万一、一部のファイルが壊れたり消失した場合でも、Backup2Goで簡単にリストアできます。リストアはクライアント側の端末から実行ができます。ちょうどウェブサイトからファイルをダウンロードする操作に似ているので、ミュージシャンの感覚には馴染みやすいものとなっています。


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■ 蛇足ながら...

機器構成の中心に据えられたOS X Snow Leopard 機は、各端末の集中バックアップのためにPresSTORE 4サービスを動作させていて、さらにストレージを接続しています。このMac OS Xサーバー機では、さらにWikiページを走らせていて、リモートアクセスによりスタジオ設備への直接アクセスが可能になるようにVPNサービスを提供しています。また、ウェブサーバーとNetBootやその他のツールにより、素早いシステムの再インストールとシステムアップグレードを提供しています。こうしたすべてのOS Xサーバーの設定とデータは、重要ですので外付けのFireWireドライブにバックアップされます。

私はPresSTOREを導入してマニュアルで実行されるバックアッププランを設定していますが、個人的にUNIXのスキルを鍛えておくために、なつかしい感じのする'rsync'などのコマンドやシェルスクリプトでサーバーバックアップを手動で実行するようにもしています。

PresSTORE 4の容易さのおかげで、私は各々のワークステーションでそのような設定をする必要はなく、私は音楽とクライアントのシステムに集中する時間を確保できます。

■ 必要なPresSTOREライセンス

PresSTORE P4 Studio Editionは、上述のセットアップのため必要な適当なバンドルパッケージです。メディア数、ストレージ容量無制限のライセンスは、すべての関連したプロジェクト・ファイル、レコーディングファイルとメディア・ファイルに対応します。増え続ける高ビットレートサンプルライブラリや、重要なカスタム設定や、ビジネス文書のバックアップが簡単になります。

ヘンリー・ステイマーヨハン氏について

ヘンリー・ステイマーヨハン氏は、アップルとUnixソリューションに特化したシステムコンサルティングチーム、headminの共同設立者です。世界各国においてプロフェッショナルオーディオ制作で20年近い経験をもち、 自身のレコードをリリースする傍ら、リリース前のテスティングや、音響機器メーカーにコンサルタントとして参画しています。革新的な音響制作技術の実験を楽しむヘンリーは、ドイツのハンブルグ郊外を本拠に活動しています。